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2020年9月23日 (水)

大学以外の職場

 前回のエッセーにはご批判も頂きました。それには考えるべき問題もありますが、堂々巡りの議論になることを恐れて、次に進むことにしたいと思います。それは、大学以外の研究者にとっての職場にどのようなものがあるか、ということです。
 その前に、大学教員に関して一つ意外で面白いところは、必要な資格がない、ということです。もちろん、最近は募集のときに博士課程単位取得とか、博士号を有すること、などの条件を課する場合が少なくありません。けれどもそれは個々に課せられる条件であって、一律に課せられる国家資格のようなものはありません。小中高の教員であれば、教員免許が必要ですし、国家公務員ならば公務員試験に合格することが必要です。しかし、大学の教員だけは、そのような資格も試験もありません。
 よく例として挙げられるのは、古い話ですが、植物学で有名な牧野冨太郎で、まだ学制が整わない頃とは言いながら、小学校2年中退という学歴しかありません。独学で植物分類学を学び、東京帝国大学の助手として採用され、その後講師に昇進しました。その際には反対もあったようで、さすがにそれ以上の昇進はありませんでした。国語学者の山田孝雄も旧制中学中退で、東北帝国大学教授になりました。
 戦後では、大学ではありませんが、鉄道マンとして車掌などしながら独学し、東京国立博物館で古美術や古筆鑑定の第一人者になった小松茂美が有名です。東京大学の工学部建築学科には、著名な建築家を教授として招くポストがあり、丹下健三、安藤忠雄、隅研吾などが教授として就任していますが、安藤忠雄は学歴としては高卒です。そう言えば、特異なキャラで知られるさかなクンも専門学校出身で、東京海洋大学客員准教授ですね。芸能人など、学歴を問わずに客員教授として呼んでいる大学は他にもあると思います。でも、普通の人には難しそうです。
 さて、大学以外の研究者の職場ですが、以下、思いつくままに挙げてみましょう。
〇研究所の研究員
 「研究所」というのは、名乗るのに必要な条件があるわけではないので、きちんと給料が支払われる大組織から、名前だけで実際には個人で名乗っているだけというのまで、ピンからキリまであります。国立の研究所としては、理化学研究所など大学以上のレベルで大きな仕事をしています。小保方さんのスタップ細胞問題はチョンボでした。
 研究所に関しては、少し知っているところもありますので、また別の機会に書くことにして、今は省略します。
〇博物館・美術館などの学芸員
 博物館・美術館などには、原則として学芸員が必要とされます。学芸員は博物館学など、大学で必要な単位を取得した上で、それぞれの領域に関する専門知識を要求されます。学芸員は専門研究者として、論文や著書を出して大きな業績を上げている方も少なくありません。
〇図書館の司書  これは司書資格が必要です。
〇高校教員  もちろん教員資格が必要ですが、非常勤講師の場合など、なくてもよい場合があります。
 大学に就職したいと希望してもなかなか難しいので、研究者希望でも、こうした資格を取っておくことが勧められます。教職はかなり多くの単位を必要としますが、学芸員はそれほどでもありません。資格があるからと言って、直ちに職があるわけではありませんが、文系だと、日本史・考古学・美術史・日本文学などの分野は、博物館などにある程度の需要があります。私はそうした資格を取らなかったので、苦労しました。
〇公務員の専門職
 国家公務員でも地方公務員でも、一般の公務員試験によって採用されるルートと別に、専門知識や技術を必要とする部署に配置される専門職があります。例えば、国家公務員であれば、教科書検定官などが典型です。理系は、それぞれの省庁で関連する技術職が技官として採用されます。文化庁には、文化財保護の専門官や宗教行政の専門家などもいます。地方自治体では、教育委員会関係などに専門家が配置される場合があります。理系は、農業試験場など、いろいろな部署に専門家が必要です。また、県史や市町村史編纂のためには、歴史の専門家が必要とされます。遺跡の発掘など、どこの地域でもありますので、考古学の専門家も必ず必要とされます。ただ、期間雇用とか、非正規雇用の場合も少なくありません。
〇民間の研究所など
 最近は、民間企業からノーベル賞受賞者が出て、話題になりましたが、民間企業の研究水準は高く、大学よりも進んでいる場合が少なくありません。文系でも、経済関係はもちろん、社会学なども結構需要があります。マスコミ、受験産業、広告産業、出版関係なども、ある程度高度な専門知識を持った人材を必要とします。ただ、必ずしも研究職という分類には入らない場合も少なくありません。
 研究職としての区分の目安として、科学研究費の応募資格があるものとないものがあります。大学の場合は非常勤講師でも必ず資格があります。国立の研究所などは資格がありますが、それ以外は認められているものとそうでないものがあります。一般公務員の場合、専門家が配属される専門職でも、通常認められません。科研は無理にもらわなくてもいいのですが、共同研究に参加できるかどうかは、研究者としてある程度気になるところです今日、研究が共同で行われ、そこに科研などのお金が大規模に投入される場合が多いので、それに加わる資格があるかどうかはかなり大事なことです。
 裁量労働制に該当するかどうかというのも区分のひとつの目安です。大学などは裁量労働制ですので、定時出勤ではなく、授業や会議のある時間に出勤して、後は自宅で研究するということも可能です。それに対して、通常勤務の職の場合、定時出勤をして時間によって拘束されます。公務員は専業義務がありますので、一般職の人が研究業績が認められたとしても、勤務時間内に大学の非常勤講師として講義をするということは認められません。このことは、出張などにも関係して、研究のための公務出張が認められるかどうか、という問題があります。それが認められない場合は、休日や有給を使っての私費調査になります。
 大学教員は、著作や論文を書くのが業績にもなりますし、場合によっては多少の印税が入る場合もあります。これは一種の兼業ですが、大学などの研究職の場合、特に申請しなくても構いません。また、著作権や印税は個人のものになります。けれども、一般公務員や企業に所属する場合、それが組織のものになる場合が少なくありません。企業の研究所で新しい技術を開発した場合、その特許はふつう企業のものになります。これは、薬の発明など、うまくいくと莫大な利益を生むことがありますので、そうなると深刻な問題を起すこともあり得ます。
 そんなわけで、研究職的な仕事も多様ですが、自分の知識や技術を生かせる仕事というのは、やはりやりがいがあります。その場合、博士課程を終えてから採用される場合もありますが、もっと早い段階で、修士課程修了などで求人がある場合もありますので、やはり就職活動は早めに行なう方がよいでしょう。私自身、博士課程まで行けば何とか職があるだろうと漫然と過ごしてしまったことへの反省を籠めての一言です。

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コメント

「研究職としての区分の目安として、科学研究費の応募資格があるものとないものがあります。大学の場合は非常勤講師でも必ず資格があります」と断定されているのは、間違い、もしくは誤解を招きます。
各研究者が科研費への応募資格を取得できるか否かは、学振ではなく、所属機関が判断します。
科研費の申請や管理は、所属機関の所管になりますので。
そして非常勤講師に科研費の応募資格を与えてくれる大学は、私の経験上ほとんど無いと思います。
これはポスドクにとって本当に深刻な問題ですので、このような研究者を取り巻く問題を論じる以上、もう少し慎重に書いていただけると有難いです。

末木文美士先生・・・ご年齢に応じたご経験と膨大な知識をお持ちでいらっしゃることは存じ上げております。しかし、失礼を承知で申し上げますと、社会的な智慧(物事の道理をさとり、是非・善悪をわきまえる心の用らき:『日国』8、1286頁「智慧」②)への転換は、欠落の思いを禁じ得ません。

>「研究職としての区分の目安として、科学研究費の応募資格があるものとないものがあります。大学の場合は非常勤講師でも必ず資格があります」と断定されているのは、間違い、もしくは誤解を招きます。
>各研究者が科研費への応募資格を取得できるか否かは、学振ではなく、所属機関が判断します。
>科研費の申請や管理は、所属機関の所管になりますので。

これは仰る通りです。しばらく前までは、長期的に継続している非常勤講師には科研を認める大学がかなりあったのですが、最近は少なくなっています。それでも、認めている大学はあります。

最初に投稿した者ですが、お返事を有難うございました。
非常勤講師に申請資格を与えてくれる大学がいくつかあることは私も知っていますが、それは例外中の例外です。
つまり、とても少ないです。
いずれにしても「必ず資格がある」とは言えないのでは?

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