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2019年5月16日 (木)

ポスドク問題再考

 博士課程とポスドクのあり方について、補足します。

1、研究員はどのような位置づけか

 博士課程までは学生であり、指導教員がついて指導を受けますが、博士論文が通れば、学生ではありませんので、当然ながら、指導―被指導という関係はなくなります。すぐに終身雇用の研究・教育職に就くことは今日では非常に難しいので、多くの場合、期限付きの助教や研究員のポストに就くことになります。

 研究員には幅があり、学振の特別研究員や正式の給与が出る場合から、科研などのプロジェクトでパート的に雇用され、週1,2回勤務で時間給の場合や、全く無給で名目だけの場合もあります。授業を担当する場合もあります。そのように千差万別ですが、図書館の本を利用できるというような便宜はあり、また、後のキャリアアップのためにも、研究員の名を得ておくことは必要です。

 研究員は、種別的には厳密に規定されているわけではありませんが、基本的には教員と同じに扱われます。ちなみに、研究生というのは学生で、学部・大学院の正規のルート外の扱いになります。従って、研究生は授業料を払う必要があります。

 海外の大学で学ぼうとする時も、学生と研究員とは扱いが全く異なります。学生の場合は留学ということで、向こうでも学生として授業料が必要です。研究員の場合は教員と同じ待遇で、授業料もいりません。留学ではなく、海外研修等の扱いになります。逆に、海外の方を受け入れる場合も、博士号取得前の場合は基本的に研究生(学生)として受け入れ、博士号取得後は研究員になります。(ただし、ある種の基金は、博士号取得前の学生も研究員として受け入れることを要求する場合があってややこしいのですが、それはさておきます)

 

2、ポスドク研究員の研究上の問題点

 研究員の給与などの生活上の問題は、基本的には受け入れ教員側は関与しません。(ただし、科研などの研究費から支出する場合は別です)。そこで、研究上の問題として何があるかというと、博士論文を出したからと言って、ただちに完全に独り立ちで研究できるかというと、なかなかそうはいきません。確かに若くていちばん馬力が出せるときではありますが、理系であれば実験技術とか、文系であれば文献解読とかの基礎力は経験を必要としますので、博士課程を終えたばかりで十分な力を身に着けているかというと、必ずしもそうは言えません。従って、実験結果の読み取りや文献の解釈でとんでもない間違いをしないとも限りません。その時に、学生であれば、指導教員が必ずチェックしますし、チェックしなければ教員側の責任にもなりますが、ポスドク研究員の場合は、チェックなしにそのまま通ってしまう可能性があります。スタップ細胞事件のときもそうですが、論文不正がそのまま見逃されてしまう危険もあります。

 もちろん受け入れ教員の側でも可能な限りのアドバイスはしますし、研究員の側でも多くの場合は自分の力不足のことが分かっているので、授業や研究会に出たり、アドバイスを求めたりするのが普通です。ただ、それは制度的なものではありませんし、義務ではありません。博士論文であれば、おかしいところがあれば落とすこともできますが、研究員の論文であれば、それは完全に自己責任になります。

 

3、ポスドク研究員のレベルアップは可能か

 それでは、ポスドク研究員の場合、制度的に何もできないのか、というと、考慮の余地はあるように思います。現在の大学制度は、大きい大学の場合、学部生から博士課程までの学生をすべて擁し、その上に学振などのポスドク研究員を受け入れるという場合が少なくありません。それでは教員側もとても対応しきれませんし、ポスドク研究員のために特別のプログラムを組むこともできません。

 しかし今日、大学の多様化に伴い、大学院大学のように、学部生のいない大学もありますし、理系の場合はもちろん、文系でも研究所のような形で基本的に学生がいない施設もあります(実際上は、何らかの形で大学院教育にはかかわっている場合が多いですが)。独立の研究所の他に、大学の付置研究所というのもあります。しばらく前から、このような研究所に対する風当たりが強くなって、不要論が言われるのですが、そのような施設は多数の学生を擁する学部と異なり、独自のプログラムを組める余地があります。そこで、若手研究者を活用する余地はまだ十分にあるように思います。

 私は、東京大学から国際日本文化研究センターという小さな研究施設に移って退職しましたが、そこでは教授は共同研究を組織することが義務となっています。その場合は、他組織の研究者を組み込むことができますので、そこに外からもできるだけ多くの若手研究者を入れて、活躍の場を提供するとともに、必要なアドバイスを与えるということができました。そのような形で、ポスドクの研究者がキャリアップと同時に、研究自体をレベルアップできる場をきちんと作っていく工夫が、もう少しできるのではないかと考えます。研究がレベルアップして、それによって、それに見合った職を得ていくというのが、本来のあり方ではないでしょうか。

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コメント

それで?

日文研のあんたの下で共同研究員をやってた西村さんは、結局そこからキャリアアップできなかったわけだが。

コメントありがとうございます。まったくその通りで、キャリアアップが直ちに次の職に結び付きません。任期付きの助教や准教授でさえ、その後職がない場合が少なくありません。今の制度では、その場合のセーフティーネットがないのが現状です。 ぶんまお

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